戦前ブルース音源研究所に直接お礼を言いに行ってみた。

信じていた戦前ブルースCDの裏切り

ども、サニータジマです。

ブルースにハマり出すと、まず初心者はネットで色々と検索したりするもので

僕もその一人である。

僕はロバート・ジョンソンやサン・ハウスなんかが大好きなのだ。

戦前ブルースについてネットで検索していて、行き着いたのが

戦前ブルース音源研究所

このサイトには、どうでも良い人には全くもってどうでも良い。

人によっては驚くほど重要な内容が沢山ある。

殆ど全ての流通している戦前ブルースの音源が、早回しであること。

あの、ロバート・ジョンソンは本人なのか?チューニングの秘密。

などなど、本当にどうでも良いことを真剣に研究している。

どうでも良いことだが、僕にとっては重要で研究所の記事はよく読んでいた。

僕は不思議に思っていたことがあった。

戦前ブルースをコピーしていると、どうもチューニングが合わない。

なんか、声が妙に高い気がする。なんて思っていた。

CDで聴いているけど、その元になっているのはレコードである。

SP盤という78回転のレコードに音源が残されているが1920~1930年代は録音回転数が豊富で

それを一律78回転で再生するからおかしくなるのだ。

そしてCD時代にエンジニアが音程や速度を変えたりもしたもんだから

もう、わけわからない。

戦前ブルースにとって重要な要素は””であると思っているけど

早回しだとその重要な””もわからない

繊細なビブラートやチョーキングも聞き取れなくなってしまう。

これは大変なことだ!

信じていたCDに裏切られた!

と思うが、全くもってどうでも良い人には、どうでも良いことでもある。

一見、遠回りにしか見えないことが実は人生で最も重要なことだと思っている。

そうでなければ、僕なんかやりきれない。

また、戦前のギター弦の復刻版を出したり、CDがおまけについたカレンダーを販売したり

こっちは勝手にお世話になっているので、お礼を言いに行ったのだ。

まあ、お礼を言いたい。

というのは口実だけれども、どんな人たちか会ってみたい。

いざ、戦前ブルース研究所へ参る

研究所は千葉県市原市にある。

自分でアポイント取って、遥々会いに行ったのだけれども

実際のところ緊張するというか

はっきり言って、怖い。

だって、日本でブルース好きとなると少数派になるけれど、そこから、戦前ブルースが好きというのはとてもニッチな存在なのだ。

そう、ちょっとどうかしてる人たちなのだ。

戦前ブルース研究所の人たちは

どうかしてる中でも、更にどうかしてる人たちなのかもしれない。

だってそうでしょ。

レコードの溝を数えたり、音の響かないペケペケのギターを集めたり、

ブルースマンの写真から、身長やギターのサイズを採寸したり。

普通じゃないことは確かで、そんな人たちに会ったらどうなってしまうのか?

でも、普通じゃない人たちって魅力的なんだよね。

一日では足りない足りない講義

約束の時間は10時、千葉県市原市の研究所に着いた。

出迎えてくれたのは、所長であるAki氏と所員であるRyuji氏。

Akiさんは空手家でもあるので、侍的なイメージを勝手に持っていた。

口数少なく、レコードの溝を淡々と数え

ちょっと、その辺のギターなんかに触ろうもんなら

「勝手に触るんじゃねぇー!」

と怒鳴られることくらいはあるかもしれない。

いや、その前に「ブルースとは何か?」と聞かれ

答えられなければ、身体の大きいRyujiさんにつまみ出され、身ぐるみ剥がされ、千葉の海に捨てられるかもしれないのだ。

そうなったら、僕なんか泣いてしまいそうだ。

ところが実際は、全く違った。

こんな僕の為に、わざわざ今日時間を作り迎えてくれた。

Akiさん、Ryujiさん共にとても気さくな方たちだった。

そんな秘密言っちゃっていいの⁈

ということまで、ざっくばらんに話してくれたし僕を歓迎してくれた。

研究所は至って普通の住宅であった。

が、これは世間を欺く仮の姿であることはこの後すぐにわかった。

家の中へ招かれ、階段を上がると奥の部屋が研究室になっている。

ドアを開けると、そこは異次元であった。

壁に掛けられた、ビンテージギターの数々・・・

大量のレコード、ブルースマンの写真の原盤・・・

つ、つ、ついに、僕はここまで来たんだと泣きそうになった。

部屋の真ん中にテーブルがあり、3人でテーブルを囲み座った。

先ずは、Akiさんにどこからどうして研究を始めていったのか聞いてみた。

Akiさんは元々はパンクロッカーだった。

僕もパンクロッカーだったので単純に嬉しかった。

人から、ロバート・ジョンソンなどを進められ聞いてみた。

だが、何とも思わなかったようだ。

僕もそうだ。最初はもう聴くことはないだろうと思っていた。

でも、いろんな戦前ブルースを聴いていくうちに徐々に泥沼にハマっていった。

中でもブラインド・ブレイクはお気に入り。

で戦前ブルースを聴いてると

あれ?みんな早回しになってるよねと気がついていた。

でもまあ、ちゃんと修正した音源がそのうちリリースされるだろうと思っていたが、一向にリリースされない。

ならば、自分でやるしかない。とAkiさんの研究は始まってゆく。

最初は一人で始めたことだが、徐々に共感する人が増えて大きくなった。

カーボンマイク

現在で10年経った。

僕は最初、早回しにはあまり興味がなかった。

だけど、実際に話を聞いて修正音源を聞いてみると、うん、やっぱりこれだなとなるんですよ。

トレースピッチ理論もわかりやすく教えていただいた。

僕はギリギリレコード世代でないから、記事だけだとわからないことが多かったのですよ。

実際、サン・ハウスの修正映像を観せていただいたくと驚いた。

何が驚いたかというと、滑らかに動くサン・ハウスの姿。

独特の””が伝わって来る。

サン・ハウスは映像でみるとアル中のような感じだったり、ドラッグ漬けのように思われたりするが

かなりのジェントルマンであることが伝わってくる。

そして、サン・ハウス独特のプリティな部分も素敵だ。

リゾネーターギター の数々

こんなの聞いたら、ファンの方々は見たいでしょ。

でも、残念ながら映像の著作権等の問題もあり、ネットに晒すことはできない。

でも、多くの人にこの映像を観てもらわないと

きっとサン・ハウスも浮かばれないと思う。

Ryujiさんがサン・ハウスの弾き方を新たに発見したと披露してくれて指導までしていただいた。

チューニングがいい加減なわけない

昔のブルースマンはチューナーとかないわけだし、チューニングはいい加減と思われたりする。

CDからコピーしてると、なんじゃこのチューニングは?となって、いい加減な連中なのか?と思うが

いや、そんなことはない絶対正確だろと思う。

コピーする音源が間違っていたら仕方ないことなんだ。

寧ろ、先人たちの方が耳が鍛えられていたし、能力も現代より上だったと思うよ。

今は機械のチューナーでポローンとすれば、簡単にチューニングできてしまうからね。

実際に当時の音叉やピッチパイプを見せていただいたが、

音叉は440Hz、ピッチパイプは431Hzもあった。

いろんな基準音が混在していた可能性はあるが、

基本的には440Hzを使っていたらしい。

音叉、ピッチパイプ、アメリカから当時の物を取り寄せている。

飛び出してきそうな生写真

ブラインド・ブレイクの写真の原盤を見せていただいた。

生写真ですよ!生写真。

これは、本当に生々しくリアルに感じた、だって生写真だから。

この写真を見てからロバート・ジョンソンの写真をみると

やっぱり、疑問を感じるね。

写真の謎に関しては、研究所のホームページの記事を最後まで是非読んでほしい。

その時代の記憶を有するギターの数々

研究所で目を引くのは、やっぱりギターでしょ。

その辺の楽器屋さんではなかなかお目にかかれないような、戦前ブルースマンが使用していたであろうギターの数々。

雑誌やネットで見たことしかないギターたち、感動するでしょ。

この辺のギターはマーチンやギブソンにはない独特の音がする。

ブルースが好きになってプレーヤーだったら、世間一般に言う良い音、倍音が豊かでサスティーンが長く煌びやか。

には、興味がなくなる。

その反対の、倍音が少なくサスティーンもないような音を好きになってしまう。

じゃあ、単純に安いギターでそれが出せるかというと出せない。

フィーリングがなんか違う。

ベクトルが逆だから仕方ないのだけれど。

ブラインド・ウィリー・ジョンソンのSP盤を聴きながら

Oscar Schmidtを弾かせてもらったら、うおーまさにこれじゃん!

そりゃもう感動ものですよ。

HarmonyやStella、Kay Kraftを実際に手に取り、それぞれの特徴等教えていただいた。

ギター好きにとっては夢のような時間だった。

研究所は異次元空間であった

研究所に来たのはAM10:00

まあ、なんだかんだ言ってもPM14:00か15:00には終わるだろう。

そしたら、帰りは東京の楽器店巡りでもして帰るかと思っていたのだが

ふと、外をみると真っ暗であった。

時間をみるとPM18:00を過ぎていた。

もう帰らなければならない。

研究所では時間の感覚が全くなかった。

僕は異次元空間に迷い込んでしまったのか。

ロバート・ジョンソンのSP盤を聴く時間がなくなってしまった。

これは痛恨のミスであるが

また研究所を訪問する最高の口実ができた。

ブルースを好きになって、僕の中で一番変わったのは人との出会いである。

同じブルースが好きと言うだけで、

年齢や職業を飛び越え仲間になってしまう。

これが最高の財産だと思う。

この日から僕の中で、ブルースに対する気持ちが大きく変化した。

良い映画や本に出会ったとき、価値観が変わることはあるが

人生が大きく変化する時は、必ずそこに人との出会いがある。

そんなことを思いながら、帰りの車を走らせた。

ありがとうございました。

戦前ブルース音源研究所の所長であるAkira Blake-Kikuchi氏のインタヴュー

https://www.mocmmxw.com/ja/interviews/akira-blake-kikuchi/

動画だけでなく文章も最後まで読むとなかなか興味深い。

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